「AX(AIトランスフォーメーション)」という欺瞞。日本のDXが失敗し続ける構造的病巣

最初に、AXはDXの上位概念ではない。AIは目的ではなく道具である。そして、優秀な道具であるAIを最大限活用するための業務標準化から日本企業は逃げいてるともいえる。

最近、IT業界やビジネスメディアで「AX(AIトランスフォーメーション)」という言葉を頻繁に目にするようになった。「DXの次はAXだ」と謳うベンダーの提案も増えている。しかし、この風潮には強い違和感を禁じ得ない。なぜなら、概念のレイヤー(階層)が完全にねじ曲がっているからだ。結論から言えば、AXは新しい変革のパラダイムなどではなく、ベンダー側のマーケティング都合による「言葉のすり替え」であり、日本の構造的弱みに寄生したビジネスに過ぎない。

思想(目的)と手段のすり替え

そもそも、エリック・ストルターマン教授が提唱した本来のDX(デジタルトランスフォーメーション)とは、「テクノロジーを用いて、顧客体験(CX)やビジネスモデルを根本から変革する」という、最上位に位置するべき「思想」であり、終わりなき「目的」だったはずだ。

一方で、AIの導入はどこまで行っても「手段」であり「道具」である。内部の処理が「人間が書いたルール」から「AIが計算する確率・統計」に変わっただけで、ブラックボックスの部分が変化したに過ぎず、利用者から見ればどちらもただのコンピューターである。

DXという高位の思想よりも、明らかに低位にある「手段」を、あたかも新しい上位概念であるかのように祭り上げる。ビジネスにおいて「AIを使うこと」自体が目的になることは絶対にあり得ない。最低限、顧客体験(CX)が劇的に変わらなければ、それは変革(X)ではなく、従来の「社内業務の効率化(IT化)」の域を出ていない。

なぜ、これほどまでに手段の目的化が横行し、日本のDXは単なるIT化へと格下げされてしまったのか。その原因は、技術の遅れではなく、日本の経営・組織の根深い病巣にある。

「改善」と「改革(BPM)」の混同

日本のデジタル化やDXが絶望的に遅れている根本原因は、システムやITツールの性能のせいではない。業務プロセスを可視化・再設計する「BPM(ビジネスプロセス管理)」や「BPA(ビジネスプロセス自動化)」の思想が致命的に不足しており、業務の標準化が全くなされていないことにある。言うなれば、現在のぐちゃぐちゃ業務をそのままAI化しようとしている、と言える。

日本企業は、属人化して複雑怪奇になった「現在の歪んだ業務プロセス」をそのままIT化しようとする。本来、BPMとはプロセスの抜本的な再設計を伴う「改革」の思想だ。しかし日本企業は、それを現場主導の「改善(少しずつ良くする)」の延長線上でやろうとする。人は本能的に変化を嫌う。現場に「自分たちの仕事を無くすかもしれない改革(標準化)」を委ねても、成功するはずがない。BPMが失敗するのは当然である。

解雇規制と労働流動性の不足という「諸悪の根源」

さらに突き詰めれば、この問題は日本の「強い解雇規制(慣習的なものを含む)」と「労働流動性の不足」という、日本経済最大の構造的ジレンマに行き着く。

欧米のようにジョブ(職務)を定義して雇用していれば、BPM/BPAによってその職務が自動化されて消滅した時点で、人材の流動化や適切な配置転換が起こる。しかし、職務ではなく「会社への所属」を契約するメンバーシップ型雇用の日本では、業務を自動化して人を減らすことが極めて難しい。

本来、経営陣はBPMによって余った人材を、より付加価値の高い新しい仕事(CXの向上など)へトップダウンで配置転換(リスキリング)しなければならない。しかし、それには現場との凄まじい摩擦と、経営陣自身の高度なビジネスデザイン能力が必要になる。その能力も覚悟もないマネジメント層は、摩擦を恐れて「業務の標準化」そのものを諦める。

結果として、「人が辞めさせられないから、業務も変えられない。しかし世間体としてDXはやらなければならないから、今のぐちゃぐちゃな業務の上にそのままシステムを乗せよう」という、歪んだ偽DXが誕生する。ここには鶏と卵の負のループが存在する。

AI書籍著者として、それでも言わなければならないこと

私自身、ディープラーニングを中心としたAI技術の書籍『AIの核心』を執筆している。AIの可能性は誰より理解しているつもりだ。だからこそ断言できる。AIはプロセスの自動化、意思決定の支援、思考の壁打ち相手として極めて強力な「道具」である。しかしどこまでいっても道具だ。「AIを導入すること」が経営目標に書かれた瞬間、その企業は目的を見失った迷い子である。

結論:経営層は気づかなければならない

経営者が悪いのではない。以下のような様々な要因が複雑に絡み合っている。

  • 経営者だけの問題ではない
  • 日本の雇用構造
  • SI構造
  • ベンダーマーケ
  • 現場抵抗
  • KPI
  • 稟議文化

さらに、次々と登場する難解なテクノロジー、止まらないバズワードの洪水、そして「乗り遅れるな」という業界からのプレッシャー。

その中で経営判断を下し続けることは、想像以上に過酷だ。ITベンダーはその苦しみを正確に見抜き、「このツールを入れれば解決する」という甘い処方箋を差し出す。疲弊した経営者がその言葉に縋るのは、ある意味で自然なことでもある。

しかし気づかなければならない。バズワードを買い続ける限り、本質的な競争力は生まれない。「お客様にとっての価値はどう変わるのか」という問いに立ち返ること、そして業務標準化という痛みを伴う経営課題に向き合うこと。その二つだけが、迷い子から抜け出す唯一の道である。

AIとDXの本質について、より深く考えたい方は『AIの核心』をご覧ください。

👉https://jf-sol.com/ai_theory/

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